KOZUENE「梢音」

小学5年の夏のはじめ。
学校の体育館を見上げると、すずめが、
屋根の板と板の隙間を忙しく出入りしているのを見つけた。
梯子を架けて上がり、隙間に手をそっと差し込むと、
三個の卵があった。一個だけ盗んだ。
下で待っている友達に自慢できることだけが喜びだった。

大事に抱えて家に持ち帰り、
真綿にくるんでカステラの箱に入れて温めた。
家族は、だれもそれが孵るとは信じていなかった。
幾日か過ぎた午後、学校から帰ると、
いつものように真綿をはがして様子を見た。
すると、割れた卵の殻の脇に、見たこともない物体がうごめいていた。
孵化したことに気がつくまで、少し時間がかかった。

それからは、家族全員で雛育てに奔走した。
ねり餌を買い、泣くと与えた。
毛が生え、体が大きくなると鳥篭に移し、
ハエを捕まえては与え、ミミズを捕まえては食べさせた。
ある日、家の窓を締めきり、
鳥篭からすずめを解放すると、勢い良く家の中を飛び回った。
肩にとまるようにもなった。
窓を開けて外に放しても、
しばらくすると戻ってくるようにもなっていた。

その日も窓から勢い良く飛び立ち、
しばらくすると戻って来るはずだった。
少しの時間の夕立ちが、突然の別れになった。
雨上がりの空を眺めながら、窓を閉めた。
悲しみよりも解放感が上回った。

水の中で浮き沈みするプリントを見ているうちに、
忘れ去っていた記憶が蘇ってきた。

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